美容師が独立開業するまでの流れと開業に失敗しないためのポイント

「どんな条件がそろっていたら独立できるの?」
美容師が独立する適齢はある?
独立して開業するまでの流れを知りたい」
開業に失敗しないために何に気をつけたらよいのか

いつか独立開業したいと考えている方は、準備の流れや時期、注意点など考えることがたくさんあります。

美容室の独立開業は思い立ってできるものではなく、早めの情報収集と準備が重要です。
独立するなら誰もが失敗せず、夢をかなえたいですよね。
うまくいけば自分の思い描いた美容室を実現できるうえ、独立前よりも年収が上がるという人もいます

そこで今回は、美容師が独立するまでに必要な準備や開業までの流れについて解説します。また誰もが一度は悩むような独立のタイミング、失敗ポイントなどについても説明するので、参考にしながら独立に向けた準備を始めてみてくださいね。

美容師が独立するためにやっておきたいこと

そもそも美容師が独立を考える場合、独立開業までにどのようなことをやっておけばよいのでしょうか。ここでは独立までに準備したいことを3つ紹介します。

01 資金を貯めておく

まず大前提として、独立開業にかかる資金を貯めておく必要があります。もちろん全費用を準備できている必要はありませんが最低限、融資の元手となる自己資金が必要です。

最も多く利用されている日本政策金融公庫の融資制度の場合、融資申込にあたり自己資金要件が定められています。自己資金要件は開業資金の10分の1ですが、実際は必要資金の5分の1から3分の1程度の自己資金が求められています。

例えば日本政策金融公庫の統計データによると、開業資金は平均1,000万円が必要です。そのため自己資金要件としては100万円が必要ですが、実際のところ200~300万円程度が求められると言えるでしょう。

また同データによると、自己資金を貯め始めた時期は「1年以上前」という人が全体の5割以上を占めています。融資審査では自己資金額以外にも、独立にむけてコツコツ努力してきたかという観点も重要です。その姿勢が独立への真剣さを示す以外に、経営者としての素質があるかという判断にもなるからです。

独立開業までにできるだけ多く貯められるように、独立を考えたら少しずつでも貯め始めてみましょう。

02 技術面の経験・実績を積む

独立する前にしっかりと技術面の経験・実績を積んでおきましょう。
告知や宣伝をしてたくさんの人に来店してもらっても、技術力が伴っていないとリピート率にも影響し良い経営ができません。

また独立後は自分の技術力を上げる以外に経営力を上げること、スタッフを教育することにも注力する必要が出てきます。そのため独立前の職場でしっかりと技術面の経験と実績を積んでおくとよいでしょう。

なお一般的に、勤務年数や技術力は定められていないですが、融資申込では目に見える実績がある方が好ましいです。独立にふさわしい経験値があると低リスクと判断され、融資審査で有利になります

まずは独立できる自信が持てるように日頃から技術力を上げておく、実績を示せるように日々の個人の売り上げなどをメモしておくことを意識するとよいでしょう。

03 美容室経営の知識をつける

独立に向けて経営知識をつけておくことも重要です。
独立したら、これまで特に重要とされていた技術力やコミュニケーション力以外に経営力も必要となります。いくら高い技術力を提供できても、よい経営ができないと独立は失敗してしまいます。

実際にやってみないと分からないことはその都度勉強する必要はありますが、最低限、雇用関連や資金繰り、数値を把握して経営に生かす知識は必要です。経営知識を習得するためには、例えば以下のようなやり方があります。

  • 経営関連の本を読む
  • 美容室経営の経験者、先輩から話やアドバイスを聞く
  • 専門家に相談する

美容室経営は必ずしも計画通りにいくとは限りません。人材不足やトラブルが発生したり経営難に直面したりした際の対応についても、実際の体験談や有識者の意見は参考になるでしょう。

美容室を開業するまでの準備の流れ

独立までにやっておくことを押さえたうえで、美容師が独立開業するまでの流れについて具体的に見ていきましょう。

01 コンセプトを考える

まずはいきなり数値の計画を立てたり物件探しをしたりせず、どんなお店をつくりたいのかコンセプトを考えましょう
どんな目的で何をやりたいか、将来的にどうしたいかなど自分の状況、家庭環境なども踏まえて考えてみるとよいでしょう。

例えば小さい美容室を作りたい、将来的にたくさん店舗展開したいなど人によってさまざまです。現実的でより具体的に計画を練っていく必要はありますが、まずはやりたいことをイメージして、その中でできる方法を探していきましょう。

02 立地・物件を探す

美容室開業にあたりお店の立地や物件の選定は重要です。
美容室の売上は立地で6割は決まると言われているからです。
サービスが良くておしゃれな美容室でも、立地が悪ければそれだけ来る人が減ってしまいます。

立地や物件を考える際、以下のような立地条件に着眼して考えるとよいでしょう。

立地の特徴立地の傾向
繁華街型商店街や駅周辺家賃が高く競合も激しいが、通行人が多く新規客の来店が見込める
ビジネス街型ビジネス街近隣のOLが顧客になる。高級型と低価格店型に区分される
住宅街型住宅街や郊外主婦や学生が主な客層。きめ細かいサービスや真見な接客が重要

参照:日本政策金融公庫のポイント集

実際、日本政策金融公庫のアンケート結果によると、約5分の1は「物件の選定に関する知識が不足していた」、約9分の1は「物件の選定にもっと時間をかければよかった」と回答しています。

あまりよく考えずに物件を選んだり直前になって慌てて選んだりしないように、しっかり検討しておきましょう。

03 内装業者を選ぶ

開業費用のうち約半分は内外装費用にかかるため、内装業者選びは重要です
そのため見積金額だけで決めず、実際の物件や自分のイメージを見てもらいながらしっかり相談に乗ってくれる業者を選びましょう。また他にも、以下のような点も確認しておきましょう。

✔価格の妥当性をつかむため2社以上からの見積もりを取る
✔内装業者の中でも美容室の実績がある業者か

04 商材の仕入れ先を選ぶ

シャンプーやリンス、カラー剤などの商品を仕入れるメーカーや美容ディーラーを選びます。
美容室によりますが一般的に、ヘアケア商品だけでなくドライヤーなど器具の取り扱いがあったり、流行の情報提供や提案をしてくれる美容ディーラーの利用が多いです。

中にはお店作りの相談に乗ってくれたり技術研修などを提供してくれたりする美容ディーラーもあります。
単なる仕入先としてだけでなく、長く付き合うパートナーとして信頼できるディーラーを選びましょう。

05 事業計画書を作る

立地や業者の目処がたったら、融資を受ける際に重要となる事業計画を作成します。
この事業計画は融資申込で提出することを前提としているため、現実的でより説得力のある計画内容が必要です。

例えば、事業計画では以下のような内容を作成します。

創業の動機

創業への準備度合い、支援者の協力、経営方針、立地選定理由などを具体的に示す

経営者の略歴等

客観的に示すために、勤務時の役職や実績などを具体的に示す

取扱商品・サービス

セールスポイントを具体的に分かりやすく示す

取引先・取引関係等

販売先:現勤務先での固定客や周辺環境を根拠にして新規客の獲得イメ―ジを示す

仕入先:仕入れ業者の情報のみでなく、仕入先との関係性があれば示す(現勤務先と同じ仕入先であるなど)

必要な資金と調達方法

設備投資と自己資金の割合、返済額のバランスがとれているか、自己資金をコツコツ貯めているか示す

事業の見通し

予想売上の根拠を示せるか、無理ない借入返済ができる計画か、利益が少ないときの余裕資金があるか示す

事業計画は返済能力があるかの判断材料になるため、実現可能であることをしっかり示せることが重要です。
そのため専門家に相談しながら進めると、より希望の融資が通りやすいでしょう。

06 融資申込をする

事業計画書など融資申込に必要なものをそろえた上で、金融機関へ融資申込をします。
融資申込先としては主に日本政策金融公庫、または民間の金融機関+信用保証協会の選択肢がありますが、より好条件で借りられる日本政策金融公庫の利用が多いです。

融資申込では事業計画など提出資料をもとに面談が行われるため、しっかり受け答えして好印象を与えられることが肝心です。
事業計画書と同様、融資を受ける重要な判断材料となるため、専門家のアドバイスを受けて臨むとより確実でしょう。

07 賃貸・業者と契約する

賃貸契約や内装業者との本契約は、融資が決まってから正式に行います。
いい物件が決まった時点で契約してしまうケースもありますが、必ずしも希望の融資額が通るとは限りません。

希望の融資を受けられないと開業費用を見直す必要が出てくるため、資金調達準備ができるまでは仮契約で止めておくべきです。

08 開店の告知準備をする

開店告知をできているかどうかでお店の売上は変わってきます。
いくらよい商品やサービスを持っていても、お店の存在を知らなければ良さを知ってもらえません。

まず知ってもらうためには看板、チラシ、タウン誌、ネットなどそれぞれの媒体の特性を把握し、集客方法を検討するとよいでしょう。

09 スタッフ採用の準備をする

スタッフを雇う場合は採用の準備が必要です。また人を雇う場合、採用作業と併せて以下のようなことが必要になります。

✔労働条件などを決めて、雇用時に雇用契約書を作成する
✔必要に応じて労災、雇用保険、社会保険の準備をする
✔スタッフを採用する場合に使える助成金の申請準備をする
管理美容師の資格を取得する

特に管理美容師の資格については、取得するために3年間の実務経験と都道府県知事が指定する講習会の受講が必要です。
講習会は開催時期が決まっているため、開業に間に合うように注意しましょう。

管理美容師の資格については、こちらの記事で詳しく解説をしています。

10 開業の手続きをする

開業が決まったら、役所などへの手続きが必要です。

税務署等への届出

税務署などへの届出として最低限、以下が必要です。

①「個人事業の開業・廃業等届出」

個人事業主として開業する場合、必ず必要な届出です。

②都道府県税事務所への事業開始の申告書

個人事業税に関する手続きとして、所管の都道府県税事務所へ申告が必要です。なお都道府県に名称や期日なのが異なるため、地域ごとに確認が必要です。

他にも青色申告書など届出をしたほうがメリットがあるもの、法人として開業する場合に必要な手続きなどがあります。ケースによって何が必要か、事前に把握しておきましょう

保健所への届出

創業予定日の1~2週間前までに、管轄する保健所に美容所開業届を提出し、施設の検査を受ける必要があります。

保健所への提出物

  • 美容所開設届
  • 美容師免許証
  • 美容師について伝染性疾病の有無に関する医師の診断書
  • 検査手数料証
  • 美容室の図面、設備概要
  • 従業員名簿
  • 管理美容師が必要な場合は、管理美容師であることの証明書類
  • 外国人登録証明書、住民票の写し(開設者が外国人の場合)

保健所からの営業許可を受けるためには、営業施設の検査をして許可を取らなければいけません。そのため物件や図面が決まった時点で一度、保健所に相談する方がよいでしょう。

雇用関連の届出

1人でも人を雇う場合、労働保険に入る必要があります。
また場合によって雇用保険、健康保険、厚生年金の加入手続きが必要なので確認しておきましょう。

労働保険
1人でも雇う場合、仕事中や勤務中のケガや病気に備えて必要な保険です。雇労基署に申込提出が必要で、従業員ごとの加入は必要ありません。

雇用保険
1週間に20時間以上働く人を雇った場合、辞めた際の失業手当などのために必要な制度です。管轄のハローワークに申込提出が必要で、従業員ごとに加入が必要です。

健康保険、厚生年金
法人として美容室開業した場合、サロンとして加入義務があります。
個人事業主としての開業の場合は任意ですが、社会保険が完備されている方が求人しやすいメリットがあります。

助成金・補助金の申請準備

助成金や補助金を利用できそうかという情報収集や、申請準備も必要です。
助成金や補助金には、開業時のホームページやチラシに使えるものから、人を雇った際にもらえるもの、店舗で新しい技術や機械を導入する際に貰えるものなどがあります。

種類が多く募集時期や申し込めるタイミングもさまざまなため、常に情報収集したり有識者からのアドバイスを受けてしっかり活用するのがおすすめです。

美容師が独立するのにベストな年齢は?

いつかは独立したい思いがあっても、何歳ぐらいで独立するか、前述の準備をいつ頃できるのか迷いますよね。
美容師の独立時期は、管理美容師に実務経験3年間の資格条件がある以外、特に条件はありません

ここでは独立する年代別にメリット、デメリットを見ていきましょう。

20代

まだ経験の浅い20代の場合、独立によって年収が上がったり、自分の好きなように働ける可能性が高くなるでしょう。独立すれば儲かるとは限りませんが、独立開業をした中には年収1,000万程度になった人もいます

ハローワーク求人統計データによると、美容師の月収は24万円程度であることを示しています。そのため独立開業が成功すれば、年収の増加が見込めるメリットがあります

一方融資の審査面では、美容師の経験が浅いため経営リスク、返済リスクがあると判断される可能性はあります。また独立開業すると技術力アップに専念するだけでなく、経営にも注力しなければいけません。そのためできるだけ、独立前に技術を磨いておくとよいでしょう。

30代

美容師で30代の場合、一般的に10年以上の勤続年数がたっています。
そのため十分な経験と実績があり独立に自信を持てる上、融資面でも経験不足を懸念される可能性は低いでしょう。

貯金もある程度貯まっていることが期待できるため、独立タイミングとしておすすめです。
なお一方、お店にとっては独立がマイナスのため、引き止めにあう可能性があります。

お店に迷惑をかけないための配慮は必要ですが、独立の計画に大きく影響しないように注意する必要はあるでしょう。

40代

40代以降になると美容師としての腕に自信も信頼性もあるため、独立するハードルは低くなるでしょう。

なお20代や30代よりも体力的に不利になってくるため、自分1人で美容師と経営者を両立することが難しくなる傾向があります。
その場合、家族と一緒にやる、スタッフを雇って自分は経営に徹するなどやり方の工夫は考えられます。

独立開業に失敗しないためのポイント

前述の準備をしてせっかく開業したならば、誰もが独立を失敗で終わらせたくないですよね。
ここでは独立に失敗しないポイントを3つ紹介します。

01 自己資金に見合った予算で開業する

まずは自己資金に見合った予算で開業することが重要です。
自己資金以外の金額は返済が必要なため、借入過多だと開業後の負担が重くなります。

資金繰りが大変だと健全な経営を続けることが難しくなります。

実際、開業した美容室の半分以上は、黒字化するまでに半年以上かかっています。
そのため資金返済の負担をかけず、資金に余裕を持っておくことは重要です。

なるべく自己資金を多く準備したり開業費用を抑えたりして、バランスの取れた予算で開業するようにしましょう

02 入念な事業計画を立てる

前述したような流れで事業計画をしっかり立てましょう。
どれだけ説得力のある事業計画かが融資審査を左右するからです。

融資審査が通らなかった場合、金額案や時期を再検討することになり、思い描いていた計画通りにいかなくなってしまいます。
そのため思いつきで進めず、販売計画や仕入計画、資金計画、売上計画、収支計画、返済計画など具体的に計画しましょう

また融資を通す目的以外でも、根拠を持って具体的な計画を立てて健全な経営ができるようにしておくことは重要です。
より確実に独立開業を勧めたい場合、専門家のアドバイスを受けることもおすすめです。

03 円満退社できるようにしておく

現在の職場と良い関係を築き、円満退社できるようにしておくことも重要です。
独立自体に反対されたりタイミングや引き抜きでもめたりすると、計画通りの開業ができなくなり後々トラブルになる可能性があります。

現在の職場と良い関係を持っておくことで情報収集できたり、現在の店舗からの付き合いで仕入先や顧客が見つかったり、困ったときに助けてもらえるかもしれません。
応援してもらえる状態で独立できるように日頃から準備しておきましょう

美容師の独立開業の準備まとめ

美容師が独立するには自己資金を貯めておく、技術経験を積んでおく、経営に必要な知識をつけておくといった準備が必要です。また独立開業するためには立地や物件の検討から業者選び、具体的な事業計画の作成の他、役所への手続きも必要となります。

開業までにはやることはたくさんありますが、前々から意識してしっかり準備をすれば独立の夢をかなえられます。

美容室の独立経験者や専門家に相談しながら進めれば、より確実に計画を進められるでしょう。独立を実現するために、思い立ったときから情報収集や準備を始めてみてくださいね